aptX LL / Adaptive でやる音ゲー

結論

  • aptX Adaptive の遅延はアプリや端末との相性と、その人の許容範囲によるところが大きいので、家電量販店などで実際に試聴してから判断したほうが良い
  • aptX Adaptive と aptX LL ( Low Latency ) で迷っているなら断然 aptX LL
  • スマートフォンで aptX Adaptive の遅延具合を選択できたり、目的のアプリが低遅延で動作してくれるなら aptX Adaptive もアリ
  • アプリ制作者は aptx Adaptive での調整をしていただきたく
  • データをくれ

ここ1年くらい Creative の BT-W3 (BT-W2) というトランスミッターと SOL REPUBLIC の SHADOW FUSION というワイヤレスイヤホンを使い、 aptX LL で音ゲーをやっていました。
Creative BT-W3 は BT-W2 の後継機で、Type-C 端子になっただけでなく、ボタンで使用コーデックが (接続先が対応している範囲で) 切り替えられるようになり、使用中のコーデックが LED の色で確認できるので割と便利です *1
ただ、いくら小型とはいえ外付けのトランスミッターは何かと不便だし、マスクは邪魔だし、先日購入した ROG Phone 3 が aptX Adaptive に対応しているので、aptX Adaptive に対応したフルワイヤレスイヤホンを購入してみることにしました。

今までは BT-W3 をつけてプレイしていた

もくじ

aptX / HD / LL / Adaptive ってなに

無線通信として割と貧弱な Bluetooth で音楽データを効率よく送受信するために使われている、データの圧縮規格です。
他にもいろいろありますが、 SBC や AAC や LDAC などは音ゲーとは無関係なので以降は触れません。
aptX シリーズではまず aptX が開発され、その後低遅延に特化した aptX LL と、音質に特化した aptX HD が開発されました。
最後に開発された aptX Adaptive は、圧縮具合を柔軟に変えることでひとつのコーデック内で高音質にも低遅延にも対応した最新の規格です *2
aptX Adaptive は aptX HD と aptX LL の上位互換かのような印象を受けますが、遅延に関して言えば aptX LL は 40ms 未満、aptX Adaptive は 50ms から 80ms 程度の仕様になっている *3 ので、個人的には「間を取った」という印象です。

おそらくこう進化したの図

ワイヤレスイヤホンの遅延をまともに検証した記事がほぼ見つからない

ここの項は愚痴です。
先述した通り、 aptX Adaptive は「間を取った」という印象だったのと、ワイヤレスイヤホンはそれなりの値段がするので、後悔しないように "aptX Adaptive 遅延" などのワードや具体的な製品名などで検索してみました。
ちょっと話がそれますけど、 GPU のレビュー記事って必ずと言っていいほどベンチマークソフトとかの結果が載っていて、「APEX がぬるぬる動きました!w」とかで終わっているものって皆無じゃないですか *4
百歩譲って個人が趣味で運営しているブログとかならそういう「感想だけ」なのもアリですけれど…
とにかく定量的に評価した記事くらいいくつかあるでしょうと期待して適当な記事を片っ端から読んでいったわけです。
そうしたら見事に裏切られました。

  • 『各種コーデックの比較』と銘打っておきながら、そのへんの記事から拾ってきたような情報を適当にまとめ、最後に『おすすめの製品』と宣って Amazon楽天のリンクがずらっと貼ってあるだけの記事
  • 「ノーツのタイミングあんまりずれてなかった!w」程度の感想しか載せていない記事
  • YouTube の PV を同じ音のタイミング (手動) で止めて、そのときの腕の角度で比較している記事 ←意味がわからなくて2回も読んでしまった
  • 「スピーカーと全然変わらなかった!w」くらいしか書いてない記事

唯一、 AV Watch の PR 記事 がオーディオテスターで比較した動画をあげていました。
こういうことをして欲しかったんですが、ただこの記事のも比較対象が少なすぎて参考になりませんでした。
その動画のすぐ上に書かれている『デレステ』や『CoD Mobile』の内容も「知らんがな」というレベルの感想だけで非常に残念です。
そういえば、ワイヤレスイヤホンで『デレステ』などの音ゲーをプレイしている記事は割とあるんですが、「知らんがな」という感じの感想しか書いてないことが多いです。
基準の曖昧な感想しかない記事を見返していたら音響界隈の記事にターゲットを広げそうになるのでこのあたりで止めておきます。糞が

NUARL N6 sports を買いました

遅延具合という観点からは糞みたいな記事ばっかだったのと、ビックカメラで視聴しようとしたら NUARL の他の製品は展示品があったのに N6 sports だけなかったのでブチギレて勢いで注文しました。
このイヤホンには『ゲーミングモード』という遅延を抑えるモードがあるのがウリです。
L側を3回押すとアイテムを取得したような「ピロリ」という音が鳴って有効になります。
もう一度3回押すと攻撃を外したような「ピロリ」という音が鳴って無効になります。割と好きです。
余談ですが、名前の "sports" は "e-sports" の方らしいとどこかに書いてありました。
あとは aptX で約7時間の連続再生 (本当はもっと欲しかった)、ドリルみてーな形の低遮音イヤーピースが魅力でした。
他にも一定の金額を払うと他の製品と交換できるトレードアップとか、充電器だけ売ってたりとか、へーという感じです。

nuarl.com

低遮音イヤーピースは、「何も再生していなければざわざわした店内でも店員と会話できる」または「何か再生していても電車内の放送がギリギリ聞き取れる」といった感じです *5

ワイヤレスイヤホンの遅延具合の検証について

スマホ音ゲーには大抵、タップ判定のタイミングを調節できる機能があります *6
しかもこの機能、通常は音に合わせてタップするだけでタイミング調整がおこなえます。
言い換えると、音に合わせてタップすると画面表示と音声出力とのズレを手軽に数値化してくれる機能なんですよ *7
厳密には端末の差などの影響はありますが、相対的な評価には大いに役立ちます。
追加の機材や、動画のアップロードなんて一切いらないし、楽曲の著作権に配慮する必要も一切ない超手軽な方法なのに、なぜこれを利用した記事が全くないのか。

タイミング調整機能

[追記]

通りすがりの人がちゃんと検証している記事を教えてくれました。
AfterShokz 骨伝導ワイヤレスヘッドホン テレビ用(ABT01+AS801) - がとらぼ
スプリッタとかマイクとか用意しないといけなくて手軽さはなくなるけどこういうのやりたいですね。
 
あと今思ったんですけど、イヤホンを端末のマイクに近づけたり端末スピーカーの音をマイクで拾って自動で調整してくれるのってどうですかね。
マイク入力の処理時間もたぶん端末ごとに差があるからむずかしいか?
というかこういう感じで遅延測定してくれるアプリない?

[追記2]

別の通りすがりの人がかなりちゃんと検証している人を教えてくれました。
価格.com - 『Bluetoothイヤホンのオーディオレイテンシ その2』 イヤホン・ヘッドホンのクチコミ掲示板
この人が使用しているアプリがかなり手軽に測定できるので良さそうです。
https://superpowered.com/latency

[追記3]

最近うっすら思ってきたのですが、aptX Adaptive で低遅延にするためには、アプリ側で何らかの対応が必要な気がしてきています*8
つまり、aptX Adaptive の遅延具合はアプリに依るところが大きいということなので、適当なアプリで使ってみて「低遅延!ゲーミング!」と書いている記事があったとしても、自分の目的のアプリで低遅延になっているかどうかは実際に使ってみるまでわからないのが現状です。
もしコーデックが音質側に重きを置いてしまった場合、ゲーミングとは程遠い遅延具合になってしまいます。

[追記4: 2022-10-21]

ROG Phone 6 Pro を購入したのですが、接続したワイヤレスイヤホンが aptX Adaptive に対応している場合、それぞれのアプリで低遅延重視か音質重視かを選択できるメニューが追加されていました。
今まではよくわからないまま勝手に音質、遅延のバランスが設定されていたため、 aptX Adaptive はいまいちおすすめしにくかったのですが、こうして自分で選択できるなら aptX Adaptive はアリです。
この機能は全てのスマートフォンに搭載してほしいところです。

aptX Adaptive の場合に、ゲームモード (低遅延重視) か高品質 (音質重視) か選択できる

コーデックの違いによる差を実際に検証してみた

前置きや愚痴でクソ長くなりましたがここからが本題です。
デレステ』と『プロセカ』のタイミング調整機能を利用し、コーデックの違いによる遅延時間を実測値で調べました。
方法は以下のとおりです。

  1. スイッチャーからアプリをすべて終了したあとに再起動
  2. ワイヤレスイヤホンなどの接続を確認
  3. アプリを起動して10回計測

なお、aptX LL については端末だけでは対応していないため、 Creative BT-W3 を使いました。

検証結果 & まとめ

手持ちの Pixel 4 と ROG Phone 3 での検証結果です。
音の出るタイミング (音に合わせてタップするタイミング) が画面表示よりも遅いほど、数値は大きくなります。

デレステによる検証
プロセカによる検証

未プレイの方向けに説明しますと、この数値は各アプリで独自に設定された値で、具体的に値1つで何msという情報は公開されていないので、違うアプリ間での数値の比較はできません
また、本来は端末の違いによる処理の差を補正する機能なので、同じアプリを利用していても端末が異なる場合は基準値も変わってきます。
そのため、本体スピーカーでの調整値を端末の基準値として載せています。

さて、特筆すべきは aptX LL です。
数値上は本体スピーカーよりも若干遅れていますが、実際にプレイしてみると全くわからないレベルです。外付けにも関わらずです。
誤差レベルなので、イヤホンを使用したときにいちいち再調整する必要はないです。
apt X は参考に載せてみただけなので、まあ、参考にしてください。これでゲームは無理です。
aptX Adaptive ですが、体感でもずれているのが割とわかります。これを許容できるかは人によると思います。
私の場合は N6 sports の『ゲーミングモード』が有効な場合だけ許容範囲でした。
aptX Adaptive を考えているなら、購入する前に家電量販店などで試聴してみたほうが良いと思います。
Qualcomm の用意した aptX の公式サイトで対応製品を探すことができます。
リンク先は aptX Adaptive 対応のイヤホン・ヘッドホンに絞り込み済みです。

www.aptx.com

しかし、aptX Adaptive は仕様上は aptX HD の上位互換でこそあれ、仕様も実測値も aptX LL の上位互換にはなっていないので、イヤホン各社や 特に端末各社 は、少なくともゲーミング向けを謳うのであれば、これからも aptX LL への対応を積極的におこなっていただきたく存じます。
[追記 2021-09-16]

最近の aptX 系コーデック、特に aptX Adaptive は LL や HD とは排他的なのかと勝手に思っていましたが (そういう製品が多いため) 、全部入りのレシーバーをたまたま見つけました。
少なくともレシーバー側は排他的な仕様ではないようです。
トランスミッター側も見つけ次第追記します。
ifi-audio-jp.blogspot.com

『プロセカ』は aptX Adaptive の値がありませんが、イヤホンを接続するとなぜかすごく不安定になり、アプリを起動し直すたびに値が大きく変わってしまったり、タップしたときに音が聞こえてくる実際のタイミングも明らかにおかしいという状況だったので測定を諦めました。
こうなってしまうとイヤホンの接続を解除してスピーカーで測定しても値がおかしくなってしまうことがあり、アプリの再起動をしないと直らないので何らかの不具合なんだと思います (v1.2.0Luna現在) 。
ここまで顕著ではないものの、ワイヤレスイヤホンを接続した場合は不安定になる傾向があったので、『プロセカ』とワイヤレスイヤホンは相性が悪いのかもしれません。
[追記: 2022-10-21]

最近のバージョン (v2.3.2 Luna現在) ではワイヤレスイヤホンを接続しても安定している印象です。
また、タイミング調整機能も大きく変わってより手軽にできるようになっており、どのくらいズレているのか、プラスとマイナスどちらに振ればいいのかも非常にわかりやすくなっているため、開発側の努力が伺えます。

要望があれば追加データを取ります & 別端末のデータ募集

チュートリアルが面倒なのでインストールしていないアプリのデータは取らなかったのですが、いろいろなアプリや端末のデータがあったほうがいいのは確かなので、コメントか何かで要望をくれたらアプリに関してはデータを取ります。
端末は流石に買えないので、データを募集します。
といってもデータを取った場合はコメントなどに書き込むのではなく、編集可能なスプレッドシートを用意したのでこちらに記載をお願いします。

docs.google.com

*1:しかも通話用プロファイルの HFP にも切り替えることができ、aptX LL 非対応でもこっちに対応しているイヤホンはかなり多いため、超低遅延は体感できる(ただし音質はラジオ)

*2:超高音質かつ超低遅延にできるわけではなく、ある程度のトレードオフがある

*3:実際にはこれに端末側の処理時間とイヤホン側の処理時間が加わるのでもう少し大きい

*4:こんなにベンチ結果いるか?ってくらい載ってることも多い

*5:音楽を聞きながら他の音が聞き取れるかどうかは音量ではなく人間側の能力の話なので、過度な期待はしないほうが良い

*6:SoC や機種などのさまざまな違いが判定タイミングに影響するため、プレイヤーがそれぞれ自分の機種に合わせられるようになっている

*7:人間がタップしているのである程度誤差はある

*8:少なくとも、ユーザー側で遅延具合を選択することはできない